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OUR MASTER : 佐々木 隆子
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Vol.1106 小林信彦著「おかしな男/渥美清」
 映画「男はつらいよ」で今でも有名な俳優の渥美清さんが亡くなってそろそろ20年になりますが、そんなことを考えながら書店の棚を物色していると、一冊の文庫本が目に入りました。
 小林信彦著
 「おかしな男/渥美清」
 (筑摩書房刊)

 新しく発売された本の様なので、手に取るやすぐにレジへ。
 レジで支払う段階になって税込み¥1000以上もする高価な文庫本である事を知りました。
 Y'sのコラムに、私が「いちいち値段なんか気にしない」なんて書いてありましたがホント気にしないのですね!
 さらに帰宅後、本棚を見て驚いたのは小林信彦さんの「おかしな男」の単行本と「おかしな男」の文庫本がすでに並んでいた事。
 二冊とも10年以上前に新潮社から発売されたもので、内容も、あとがきも、解説に至るまで全く同じで、ちがうのは出版社と文字の大きさくらいなものでした。
 渥美清さんが亡くなって20年の節目に再出版されたのですね。
 すっかり騙されてしまいました!
 さっそく翌日から読み始めましたが、スマホのせいか最近さらに眼が悪くなり、約500ページに2週間もかかってしまいました。
 ただ、その間に松本晋一さんの「ロープウェイ探訪」(グラフィック社刊)に寄り道をしましたがね。
 放送作家をされていた小林さんがテレビ・スタジオの片隅で、若き日の渥美さんと出会い、独身時代はお互いの部屋で徹夜で語り合う程の近い関係であった頃から晩年までを、小林さんの体験だけで文章にしています。
 小林さんの凄いところは表現がお上手(作家先生ですから!)で、本物の渥美さんが目の前にいて、渥美さんの語りを聞かせてもらっている気分になれる事。
 ああっ、こんな風に熱く語っていたんだろうな?
 俳優というか役者というか、“渥美清としての生き方”が良くわかる本です。
 映画「男はつらいよ」までに約250ページを費やしています。
 小林さんと渥美さんの接点はそこら辺からグッと減ったそうですが、たまに顔を合わせる映画の試写会場や道端でのエピソードの数々には感心してしまいました。
 晩年のテレビのドキュメンタリー番組の事にも触れ、松竹映画のスタッフの為にやっと立って寅さんを演じている渥美さんのつらそうな姿が今でも目に浮かびます。
 主治医によると「出演できたのは奇跡に近いこと」だったそうで、私は最後の「男はつらいよ 寅次郎紅の花」(第48作1995年)を劇場で観た時に渥美さんの変貌ぶり(亡くなる半年前)にがく然としたものです。
 そんな事をひとつひとつ思い出させてくれる貴重な本です。
 また、渥美清さんを知らない方が読んでも十分に楽しめる内容になっています。
 おすすめいたします!

天野 俊哉




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