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OUR MASTER : 佐々木 隆子
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Vol.1856 もうすぐ生誕100年ペギー・ライアンH1945年のペギー
 1945年当時、ユニヴァーサル映画を支えていたのはラジオ出身のお笑いコンビのアボット&コステロでした。B級ミュージカルの常連だったペギーがユニヴァーサル映画の大スター、アボット&コステロ映画のヒロインに抜擢されました。

『ヒア・カム・ザ・コーエド』(1945年2月2日公開)
 監督/ジーン・ヤーブロー
 振付/ルイ・ダプロン
 バッド・アボット
 ルー・コステロ
 ペギー・ライアン
 マーサ・オドリスコル
 ジーン・ヴィンセント
 フィル・スピタルニー&オーケストラ
 アボット&コステロのコンビがアメリカの映画観客に絶大な人気があったなんて信じられない位詰まらない作品。フィル・スピタルニーというバンド・リーダー率いる女性だけの楽団や凄いヴァイオリンを弾く女性プレイヤーやグリークラブの歌など華やかになりそうなのに白黒画面のせいか?演奏する曲が悪いのか?全くテンションが上がりません。女子大生役のマーサ・オドリスコルらがハリウッド女優にしか見えず、わずかにペギーだけ女子大生らしさが感じられるので彼女の出番が待ち遠しくなります。映画が始まって30分近く過ぎた辺りで太っちょコステロとペギーの軽いデュエットがあるのは嬉しい。
 コステロが覆面レスラーと対決するプロレスの場面ではコステロがほとんど吹き替えを使わず自分で動いているのはお見事。バスケットボール試合の中継をするのが当時の有名なスポーツ・アナウンサー、ビル・スターン。ここでやっと応援団のリーダーをつとめるペギーのタップダンス・ナンバーが登場します。ややボリュームありすぎのコーラス・ガールズを従えてスピンを多用したルイ・ダプロンの振付で踊ります。ペギーをフィーチャーしたものでは最良のナンバーとなりました。
 この作品の全編、ペギーとコステロのデュエット及びペギーのタップダンス・ナンバーはYouTube映像で観ることが出来ます。

『ザッツ・ザ・スピリット』(1945年6月1日公開)
 監督/チャールズ・ラモント
 アンサンブル振付/カルロス・ロメロ
 振付/ルイ・ダプロン
 ジャック・オーキー
 ペギー・ライアン
 ジューン・ヴィンセント
 ジョニー・コイ
 題名の『スピリット』はダンス用語ではなく“魂”のこと。古くは『ジョーと呼ばれた男』(コラムVol.1353をご参照)、ミュージカル『回転木馬』近年では『ゴースト』、テレビドラマ『死役所』と同じあの世に行けずに彷徨う主人公を描いた作品です。『ザ・メリー・モナハン』に続いてジャック・オーキーがヴォードビリアンの主人公を演じ、映画が始まって直ぐにあの世に!そんなジャックを迎える天国の門番をチャップリンと並ぶ喜劇王バスター・キートンが演じています。
 やがてジャックの娘が成長してペギー・ライアンになるのですが、この娘ペギーだけはゴーストになった父親が見えるのですね。ペギーの恋人役として登場するのがタップ・ダンサーのジョニー・コイ。ジョニーはドナルド・オコンナーの代役みたいな位置付けの青年ですが、タップ・ダンサーとしては超人的な人です。跳躍力が半端ない、ステップが力強いなど自信に満ちていてソロ・ダンサーの鏡みたいな人です。アームの使い方が少しだけ松本晋一さんに似ている。誰もいない夜の舞台で“ジャダ”“アヴァロン”の曲で見せるソロ・タップと、続くペギーとのデュエット・タップのどちらもハイレベルで見応えがありました。ペギーが歌いジョニーと踊る“ベビー、ウォント・ユー・プリーズ・カム・ホーム?”はブルース調の大人っぽいムードでペギーにとっては新趣向。フィナーレのショー場面は大勢のコーラス・ガールズのゴージャスなダンス、ラインダンス、バズビー・バークレー風のレヴュー場面などユニヴァーサル・スタジオとしては努力はしているものの華やかにならず残念な結果に。黒のタキシードを着たジョニーと白いドレスのペギーのデュエット・ダンスが美しく決まってエンド・マーク。

 ジャック・オーキー、アンディ・ディヴァイン、ジーン・ロックハートから脇役のバスター・キートン、アーサー・トリーチャー、アイリーン・ライアンまで俳優が優れていて台本も良いのでドラマの部分がミュージカル・ナンバーを越えてしまった作品。

『オン・ステージ・エブリバディ』(1945年7月27日公開)
 監督/ジーン・ヤーブロー
 振付/ルイ・ダプロン
 ジャック・オーキー
 ペギー・ライアン
 ジョニー・コイ
 オットー・クルーガー
 ジュリー・ロンドン
 キング・シスターズ
 ジャック・オーキーとペギーが再び親子を演じます。今度はヴォードビリアンなのでリハーサルの舞台でのデュエット・ナンバーもあります。ペギーは以前の様な変な表情をしなくなり美しさが際立っています。ペギーが恋人役のジョニー・コイとアパートの中をタップを踏みまくるナンバーでは部屋を抜けて2人を追いつづけるカメラワークが面白いし、2人が細かいステップを物凄いスピードで踏むのが圧巻。
 ジョニー・コイには野外のプールサイドで踊るタップのソロもありますが、シチュエーションがあまり面白くなく盛り上がりません。続くワンショルダーの花柄水着を着たペギーのナンバーは男性ダンサーが絡む派手なジルバも悪くないのですが、照明や装置が無いせいで安っぽい記録映画に見えてしまうのが勿体ない。

 この映画の不思議なところは、後年有名になるジャズ歌手ジュリー・ロンドンが全く歌わなかったり、女性ヴォーカル・グループのキング・シスターズの1番小柄な金髪女性のアップばかりを狙ったりします。
 映画の最後のラジオ局の場面に至っては全然魅力の無い女性歌手が順にソロで歌ったり、物真似芸人が延々とつまらない芸を連発したり、やらよく分からない展開が多すぎました。それでいて肝心なジョニー・コイも、ジュリー・ロンドンも消えてしまうのは酷い!

 第2次世界大戦の終結によりハリウッドの映画会社の多くが戦後不況に備えてスタジオの改革を行い、多くのスター達が解雇されました。その中にはペギーの名前もあったようです。おどけてばかりの3枚目タップ・ダンサーのイメージが女優としてはマイナスだったのでしょう。
 1945年にユニヴァーサル映画を離れるまでのペギーについては1980年代のペギーにインタビューしたラスティ・フランク女史の名著『TAP』に詳しいので興味のある方はぜひ読んでみて下さい。

天野 俊哉



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