ジャズダンス, タップダンス, JazzDance, TapDance

Vol.1841 もうすぐ生誕100年ペギー・ライアン②少女タップダンサー時代

　1940年代のユニヴァーサル映画のB級ミュージカルでドナルド・オコンナーとコンビで活躍したタップ・ダンサーのペギー・ライアンがもうすぐ生誕100年を迎えます。

　両親が舞台人だったことからペギーは2歳でタップダンスを習い始め、10代の時にMGM映画のダンス監督デイヴ・グールドにスカウトされ、MGM映画と7年契約を結びます。当時のMGMにはエレノア・パウエルという美しいタップダンスのスター女優がいたためタップダンスが得意な子役のペギーに全くチャンスが来なかったのは皮肉です。そんなMGM時代に短編映画でペギーのタップダンスの実力が生かされた作品が残っています。

『ビリー・ローズ・カサ・マニャナ・レヴュー』（1937）
　後に『錨を上げて』や『アニーよ銃を取れ』などMGMミュージカル映画の名作を沢山撮るジョージ・シドニーが監督を、クレジットはありませんがタップナンバーのダンス監督はデイヴ・グールドのはずです。スタジアムみたいな巨大な会場の広い舞台でくりひろげられるレヴュー・ナンバーが豪華で、100人以上のダンサーが踊る振付が圧巻です。多分、実際のビリー・ローズのダンス・ショーをカメラに収めたものだと思います。

　主演はタップダンサーのリー・ディクソンとMGMの新人女優ヴァージニア・グレイの2人。
　リー・ディクソンはどちらかと言うとワーナー映画で少しだけ活躍したタップダンサーで、ルビー・キーラーと主演して巨大なタイプ・ライターの上でステップを踏みまくった『レディ・ウィリング・アンド・エブル』が最高でした。
　ヴァージニア・グレイは以前このコラムで取り上げましたが、一応スタジオでタップは習わされた女優さんですが、リー・ディクソンと動くフロアの上での複雑なタップの振付には苦労したに違いありません。
　まだ13歳のペギーはセリフもありますがMGMが売り出そうとしているスター候補生の扱いではありません。水兵服のタップダンス・ナンバーでもリー・ディクソンと共にかなりのテクニックを披露しているものの、あくまでヴァージニア・グレイのサポート役に終わっています。
　全編1930年代のMGMミュージカル映画『踊るアメリカ艦隊』や『巨星ジーグフェルド』のサウンド・トラックの二次使用で、音楽の予算を上手く抑えています。

『明朗色時代』（1937）原題『トップ・オブ・ザ・タウン』
　当時はB級映画会社だったユニヴァーサル映画（コラムVol.283）が大金をかけたミュージカル映画で、出演者よりもアール・デコ調の豪華なセットの方が話題になりました。それにしても“明朗色”とはいかにも昭和10年代らしい。“時代”なんてタイトルもアステア＆ロジャースの『有頂天時代』や『気儘時代』を意識したのでしょうね。何だかこの『明朗色時代』という日本題名だけがパッとした作品。

　主演はドリス・ノーランとジョージ・マーフィ。ドリスにはキャサリン・ヘプバーンやケイリー・グラントと共演した『素晴らしき休日』という名作がありますが、歌えず踊れずでミュージカル映画の主役をやるには荷が重すぎた様で気の毒。片やジョージは颯爽と黒燕尾服を着こなしたものの、ミュージカル・ナンバーが最後だけとは配置が悪すぎた。ジョージはソロのタップ・ダンサーというよりもシャーリー・テンプル、エレノア・パウエル、フレッド・アステア、ジュディ・ガーランドらハリウッド映画の素晴らしいミュージカル・スターたちとデュエットした事で有名です。

　大作ミュージカルなのにエラ・ローガンとかガートルート・ニーセンなんてよく知らない歌手が登場しては退屈な歌を歌ったり、スリー・セイラーズみたいな冴えない芸人が登場してはつまらない芸を延々と披露する中、映画が始まり47分たってやっとオーディション場面に登場するペギーはキュートな魅力でタップを踏みまくり作品に華を添えます。
　CGが無い時代に豪華なセットで100人以上のダンサーや出演者が踊りまくる“ジャンボリー”というナンバーは凄い迫力のまま10分以上続きます。ここで初めてステップを踏むジョージ・マーフィの前に再び登場するのがオシャレなデザインの黒燕尾服を着たペギー。ジョージとペギーのデュエットはスピンばかりで短いけれど中々素敵です。ダンス監督としてクレジットされているジーン・スナイダーの仕事が何よりお見事。

　ペギー・ライアンはこの後普通のドラマに出演したり無駄な時間を過ごしますが1942年18歳の時にユニヴァーサル映画と契約をしてB級ミュージカル映画で活躍を始めます。

天野俊哉