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Vol.1595 もうすぐ生誕99年原節子さん〜日本映画の大女優
 先日、書店で『原節子の真実』なる新潮社発行の単行本を買いました。そう、往年の大女優原節子さんについて書かれた本はとても少ないので貴重やん?と思ったからです。滅多に単行本なんて持ち歩かない私がその本と行動しはじめて数日後、町の小さな書店の棚を眺めていた私の目に飛び込んで来たのは『原節子の真実』の文庫本でした!
 えっ?
 今月の新刊コーナーの目玉商品の扱いで置いてあるのです。
 でも、単行本から文庫本になる時って写真の掲載量が減ったり、写真が削除されてる事もあるんだぜ!と上から目線で文庫本を手に取りパラパラとページをめくったら、全て単行本と同じ構成で写真も同じでした。
 ふん。
 まあいいか。
 単行本の発売から文庫本の発売までの期間を数えると、昔の女優さんの本としては売れたのでしょうから喜ぶべき出来事ですしね。
 本当なら来年2020年の6月に生誕100周年を迎えるタイミングでコラムにするべきだったのかも知れませんが、先に同じ時代に活躍した山口淑子さんを取り上げておりますのでもうすぐ生誕99年にしました。

 原節子さん(1920〜2015)は大女優として有名ですが、演技派女優であったのかは私には分かりません。
 原さんのキャリアも山口淑子さんと同じ様に戦争抜きには語れません。
 日本と同盟を結ぶ以前のドイツの国策映画『新しき土』関連コラムVol.316をご参照)への主演で10代の原さんの人気はブレークしました。ただし、女優として一番光り輝く20代前半に、第二次世界大戦とぶつかり、戦争映画ばかりに出演。最近、1943年に製作された『決戦の大空へ』なる原さん23歳の時の映画を初めて観ました。10代の青年たちに「お国の為に頑張って戦え、勇ましく死んでゆけ」なんて台詞ばかり、こんな映画に惑わされ何れだけの命が太平洋に散ったかを考えると映画の持つ間違った影響力にゾッとしてしまいました。この映画、靖国神社での出征の実写まで登場しましたし。まあ日本人全てがそう信じていた時代ゆえ仕方なかったのでしょうが。

 戦後、原さんを開花させたのは所属していた映画会社ではなく、日本映画が誇る名監督たちでした。まあ、際立った美貌ゆえ皆が自分の作品にキャスティングしたかったのでしょうが、それにしてもこの監督の顔ぶれは見事です。

黒澤明監督
『わが青春に悔いなし』

 戦後すぐ1946年に製作された作品。戦時中『ハワイマレー沖海戦』や『指導物語』等の作品で軍国主義を象徴するスターだった藤田進さんと原さんが軍国主義に敵対する様な真逆の役柄を演じているのも奇妙だなぁ、と思いながら観た記憶があります。テレビで放映される度に観てしまう黒澤作品のひとつで、「売国奴」といじめられながらも田植えをし続ける原さんの演技が凄すぎる!
 日本に駐屯していたアメリカのGIが映画の撮影風景をフィルムで撮影、現在そのカラー映像をYouTubeで見る事が出来ます。当時25歳の原さんが美しいカラー映像で甦ります。

吉村公三郎監督
『安城家の舞踏会』

 戦後いち早く解体された華族制度を私は良くは知りませんが、外国映画の女優さんみたいな美貌を持った原さん演じる没落華族の令嬢役ほど説得力のある役柄も珍しい。よーく観ると間の抜けた展開でズレを感じる作品ではあります。

木下恵介監督
『お嬢さん乾杯』

 テレビの『木下恵介アワー』で育った私にとっては最高の作品。確か主演の佐野周二さんが亡くなった時に追悼放映したはず。没落華族のお嬢さんに縁談話が!という先の『安城家の舞踏会』から少し発展した様な内容。ひょうひょうとした佐野さんとのコンビが絶好調。ラストの『愛染かつら』のパロディには笑った!

今井正監督
『青い山脈』

 石坂洋次郎原作の名作中の名作ですね。主題歌が有名です。原さんは進歩的な考えを持った島崎雪子という美貌の教師役です。生前、私の母がこの映画を観て原節子さんのファンになったとよく話していました。

成瀬巳喜男監督
『めし』

 原作の林芙美子さんが原さんでは所帯染みてないからダメ!とキャスティングに反対したそうな。では、ご主人役の上原謙さんはどうなんでしょうかね?まあ映画ですから、と納得したのか。庶民の生活を描いたら右に出るものはいない成瀬監督と原さんの相性は悪くはなかったけど、何度も観たくなる映画ではありません。ただ、偉く評判の良い作品なんですよ。

 今や伝説となっている「原さんが開花したのは小津安二郎監督作品」というのは、間違いでは無いけれども偉大な監督は小津監督以外にも存在したわけですね。確かに『晩春』『麦秋』『東京物語』の3作品に残された原さんの姿は小津監督により完璧なまでに美化されていて隙がありません。とは言え、名作『晩春』におけるお能鑑賞場面での、父親敵視に変わりゆく表情の変化は小津作品とは思えぬ、狂気でありホラーそのものであります。
 また、ほとんど忘れ去られてますが石井桃子原作、倉田文人監督の『ノンちゃん雲に乗る』で、鰐淵晴子さん扮するノンちゃんのやさしいお母さん役を演じました。出演場面はそんなに多くありませんが、『わが青春に悔いなし』で共演した藤田進さん演じるお父さんとノンちゃんとの家族団らんや、ノンちゃんとお雛様をしまう様な日常的な場面など、ファンが望む原節子像を綺麗に演じていました。

 現在に至るまで原節子さんが伝説の美人女優とか永遠の処女などと呼ばれ続けるのは、早くに引退をして鎌倉に身を潜めてしまったからです。中々出来る事ではありませんね。
 興味のあるかたは今すぐ書店で『原節子の真実』(新潮文庫)を探してみてくださいね。

天野 俊哉



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