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OUR MASTER : 佐々木 隆子
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Vol.786 Vol.773へのアンサーコラム
 天野先生のコラムVol.773「横浜で誰も傘をさしていない。誰かこの疑問に答えて」に僭越ながら横浜生まれ横浜育ちの私がお答えしましょう。
 古くは開国開港、そして戦後と、横浜と横須賀はアメリカンカルチャーやファッションの玄関口でした。先進国アメリカは農業国でもあり、広大な国土の約半分が乾燥地域なので、雨は気温を下げ、農作物を育ててくれる恵みの雨なんです。もちろん日本でも恵みであることに変わりはないのですが、多湿な日本で雨に濡れるのは乾きにくくて風邪をひきそうだし、映画やテレビでは恋に破れたり仕事に失敗した時に雨でズブ濡れになって惨めになるシーンの定番で使われるので、ネガティブなイメージが強いですね。しかし、ある調査によるとアメリカ人に「雨は好きですか?」と質問したところ、回答者の3分の2が「好き」と答えたそうです(これは本当です)。それを証明するのが、ミュージカル映画の金字塔「雨に唄えば」の、あのシーンです。主役のジーン・ケリーが、どしゃぶりの雨が降りしきる中、傘をたたんで歌い始め、遂には帽子を脱ぎ満面の笑みで雨を全身で受け止めてしまうのです。1953年の日本公開当時、雨の日に傘をささないアメリカ人を目の当たりにしていたハマッ子たちは、この映画を観て「そうか、雨に濡れるのはハッピーなことなんだ!」と確信しました。それ以来、60余年経った現在でも横浜では傘をさしません。これが理由の一つ。もしさしている人がいたら、その人は横浜以外の出身かアステア派です。
 もう一つの理由がファッションです。アメリカは昔からクルマ社会ですから荷物や傘を持って歩く習慣がありませんし、乗り降りするたびに傘をさしたりたたんだりするよりフードやレインコートの方が便利で人気だったはずです。コートといえば、天野先生がコラムで何度も取り上げられているハンフリー・ボガートやアラン・ラッドがフィルム・ノワールの中で着用しているトレンチコートです。ハードボイルドでスタイリッシュなイメージでカッコイイですね。トレンチコートは元々は軍用レインコートですから、本来これを着て傘をさすのはファッション的にカッコ悪いです。ちなみに軍都として栄えた横須賀が発祥のスカジャンを着て傘をさすのもダサイです。スカジャンを着るなら雨なんて気にしちゃダメです(※)。
 これらが総じて横浜や横須賀では「雨に濡れるのはハッピーなことで傘をさすのはオシャレじゃない」んです。そういう意味でフレッド阿部さんの「やっぱり横浜はアメリカなのかな?」という答えはイイ線行っていますね。

※横須賀で遊んでいた高校生の頃、スカジャンを着て傘をさして歩いていたら、いきなり後ろから襟元を掴まれ、傘を奪われて地面に叩きつけられました。酒臭いネイビーのおにいさんが「(英語で)お前はお嬢ちゃんか?傘なんかさしてんじゃねえ!さすならそのスーベニール脱げ!」みたいなことを怒鳴っていました。スカジャンは元々彼らが国に帰る時のスーベニール(お土産用)ジャンパーなんです。軍人は傘をさしませんから、きっと自分たちのスタイルに反したスカジャンの着こなしというか使いこなしが気に入らなかったんでしょう。
 現在の横須賀はいたって健全で安全です。みなさん足を運んでくださいね。
 失礼しました。

Y's取材班




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