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Vol.70 「それは秘密です」という変な映画館
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先日、私はとんでもない映画上映と出会ってしまいました。
渋谷の某映画館のちらしを手に取ったら、<ブラック・シアター>の文字が。映画のタイトルがまったく書かれていないので、映画館まで出かけていって「何を上映するのですか?」と笑顔でたずねたところ、「言えないんですよ」と笑顔で答えてきました。
映画館には先ほどのちらしよりも、もう少し詳しいものが置いてありました。そこには<21本の名作からB級映画までを3本立てで日替り上映>とあり、映画のジャンルと製作年度のみが書かれていました。例えば「ミュージカル(1943)・アニメ(1952)・スリラー(1945)」といった具合です。
\1,300の入場料を支払って私が観た作品は、ミュージカル「This is the Army」(1943)、アニメ「ポパイ」(1952)、スリラー「Detour」(1945)でした。「This is the Army」は、学生の頃買ったビデオとまったく同じ、115分のカット・バージョンでした。ただ、字幕スーパー入りで観たのは初めてでした。
古いミュージカルを大きなスクリーンで観れたことは嬉しく、3本立て3時間\1,300はお得だったと思います。お客さんは私以外に1名のみ、意外にも若い女性でした。この方は2本目のアニメが終ったら帰ってしまいました。ちなみに他のミュージカルは「テンプルちゃんの小公女」「セカンド・コーラス」「恋愛準決勝戦」など、早くから版権が切れていて、現在では\500DVDで発売されているものばかりでした。
もし、これらのタイトルが書かれているちらしであったならば、私は観に行かなかったと思います。ちょうど、旅行会社の、北に行くのか南に行くのかわからないミステリーツアーとか、何が入っているのかわからない福袋みたいな、スリルいっぱいの映画上映でありました。
「This is the Army」ってこんな映画
終戦の年1945年当時、アメリカで最もヒットした映画が名作「風と共に去りぬ」、そして次がこの「This is the Army」でした。「ホワイト・クリスマス」などを作曲した音楽家アーヴィング・バーリンが自ら出演して歌いまくってしまう、<強いアメリカ>のシンボルとも言える作品で、ブロードウェイ・ミュージカルの映画版になります。
製作のハル・B・ウォリスと監督のマイケル・カーティスのコンビは、「ヤンキー・ドゥードル・ダンディ」「カサブランカ」などのアカデミー賞受賞作品を作ってきました。ハリウッドでも最高の技術を誇っていたワーナーの音楽スタッフ、特にレイ・ハインドルフの編曲が見事です。
主演は、のちの大統領ロナルド・レーガンと、同じく政界入りすることになるジョージ・マーフィーの2人で、もうこれだけでアメリカン・ドリームそのものですね。舞台と同じく、実際に当時のアメリカ陸軍に所属していた兵士350名が、歌って踊って女装までしてしまうエンタテイメントで、星条旗とマーチの連続に圧倒されます。
フィナーレの移動舞台を使っての行進がすごい迫力で、「よくこんな国と戦争ができたものだ」とショックを受けてしまいました。
タップダンスは、ジョージ・マーフィーのソロをはじめ5曲ありますが、入隊する前はバリバリ踊っていたであろう黒人たちのナンバーが見事で、ボクシングの元ヘビー級チャンピオン、ジョー・ルイス本人が登場して盛り上げます。
9.11テロのあと、セレモニーなどで必ず歌われた“God Bless America”は、もともとこの映画の為に書かれたものです。機会があったら一度ご覧になってください。
天野 俊哉
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