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Vol.353 ヒーロー俳優自伝を読んで
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天野先生のハリウッド、宝塚、下北のエンターテインメントコラムに続いて仮面ライダーとは、あまりのテーマの落差に驚かれたかもしれませんがご容赦ください。
先日、ある方に「仮面ライダー=本郷猛」(藤岡弘、著 扶桑社)と「一文字隼人 仮面ライダー2号伝説」(佐々木剛著 白夜書房)を頂きました。その方は私と同じ歳なんですが全然ライダー好きっぽい感じがしないし、その方の口からライダーの“ラ”の字も聞いたことがないので、ライダーファンの私のためにわざわざ買ってくださったんだと思います。ありがたく拝読させて頂きました。
「ライダーに興味はないけど、この先も読んであげようかな」と思ってくださっている方に、ライダー役を演じた俳優二人の関係について簡単に説明させて頂きます。
1971年、仮面ライダーに変身する本郷猛役を演じる藤岡弘さんが、撮影中にオートバイで転倒して全治6ヶ月の重傷を負ってしまい、撮影が続行できなくなってしまいます。そこで制作サイドは撮影を進めるために「ライダーは悪の秘密結社ショッカーを追ってヨーロッパの戦いに赴き、代わって2号が登場する」ことにしました。2号に変身する一文字隼人役には、藤岡さんと同じ劇団の同期生だった佐々木剛さんが選ばれます。佐々木さんは「藤岡君の役を奪うことになる」と断っていましたが、「藤岡君の代わりは君しかいない」と説得され、「藤岡君が復帰するまで」という条件で引き受けます。しかし、佐々木さんは当時、自動二輪の免許を持っていなかったので、藤岡さんのようにオートバイに乗って変身することができません。そこで苦肉の策として立って変身するポーズが生まれ、これが子供たちにウケて大ブームとなり、視聴率もグングン上がりました。やがて藤岡さんが治り(実は悪化したら一生歩けなくなるかもしれない状態だったが、一日も早く復帰したくて完治していないことを隠していた)、制作サイドはより高視聴率を狙って「ダブルライダー」を提案しますが、佐々木さんは「自分はあくまで代役。ライダーは藤岡君に返すべき。自分がいたままでは彼が付録のようになってしまう」と頑なに拒否したため、「2号は南米での戦いに向かった」ことにして新1号単独路線で行くことになり、藤岡さんは現場復帰を果たします。一方、佐々木さんはこの頃が役者としてのピークだったかのように、その後様々な苦難に見舞われ、役者の世界から転落して行きます。
両書には各々の視点で、互いへの友情、スタッフやファンに対する感謝と敬意、ヒーローを演じた役者が背負った宿命、これからをどのように生きて行くかなどが記されており、藤岡さんの書は番組に携わった方々との対談形式で軽やかに、佐々木さんの書は壮絶な役者人生が一人称で折々に詩を交えて切々と書かれています。ライダーファンならずとも、人として生きてゆくには何が大切なのかをあらためて考えさせてくれる、大人向けの二冊です。
Y's取材班
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