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Vol.1953 今年初めての宝塚歌劇(2022/3)
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宝塚歌劇月組公演の最新作は小柳奈穂子脚本・演出のミュージカル・キネマ『今夜、ロマンス劇場で』と三木章雄作・演出のジャズ・オマージュ『FULL SWING!』。
綾瀬はるかさん主演の映画がオリジナルの『今夜、ロマンス劇場で』に関しては何の予習もせずに劇場で初めて観ました。映画の世界と現実を行き来する、というあたりはバスター・キートン監督・主演のサイレント作品『キートンの探偵学入門』(1924)、スティーブ・マーティン主演のミュージカル『ペニーズ・フロム・ヘヴン』(1981)、ウディ・アレン監督の名作『カイロの紫とバラ』(1985)などと同じですが、舞台版は宝塚歌劇にぴったりの本当にロマンティックで暖かい作品に仕上がっていました。
こうしたストーリーを宝塚の演出家がオリジナルで書けたらもっと素晴らしかったのに!と余計な事まで考えてしまいました。今の日本映画の創作力は本当に凄いのですね。作品に流れる歌曲の数々を歌うトップスターの月城かなとさん、トップ娘役の海乃美月さんをはじめメインの5名の方の歌がみんな上手いのも作品を盛り上げた結果だと思います。宝塚ではこれが中々難しい事なのですね。
ショーの演出家である三木章雄氏は20年以上前に『ジャズマニア』というジャズ音楽ばかりを使ったショーを創っているので『FULL SWING!』のタイトルを聞いた瞬間から「待ってました!」と大喜びしたものです。選曲と編曲が素敵なのと今回は、そう今回はメインの5名の方の歌が素晴らしいので客席でずっこける事もありませんでした。失礼。
ソフト帽にトレンチコートの衣裳を着た月城かなとさんの歌うテーマ曲の“フル・スイング”からもうワクワクしてしまいます。このオープニングでガラッと雰囲気を変えてアーティ・ショー楽団の大ヒット曲”ビギン・ザ・ビギン”が登場します。軽やかなスイングも宝塚のオーケストラが奏でるとムード満点。抑えたゴールドの衣裳がより大人っぽい雰囲気を。出演者全員がズラッと並んで暗転すると続いては私の大好きなアーティ・ショー楽団の”フレネシー”。銀矯で月城さんと海乃美月さんが軽くステップを踏む。原曲の良い部分を活かした編曲が素敵です。もうこの2人ずっと見ていたい!振付は若央りさ氏。
ここでオーケストラ休憩?パワフルなダンスが得意の暁千星さんをフィーチャーした中近東のナンバー。音楽がジャズではないかも知れませんがワンクッション入れた構成はプラスに作用。お芝居ではやや出番が少なめだった暁さんファンには大歓迎なナンバーに違いありません。振付は御織ゆみ乃氏。
“ジャスト・ア・ジゴロ”では鳳月杏さんが男役の美学を徹底的に魅せる。スーツの下が黒のタートルネックのセーターというのも珍しい。若央りさ氏の振付がまさにこの曲にピッタリで嬉しくなってしまいました。
実力のある男役スターが多いのでトップスターの月城さんは随分間を置いての登場。御織ゆみ乃氏振付の“ジャンゴに捧げる”はドラマティックなナンバー。月城さんの衣裳が軍服というのも意外性あって面白い。月城さんガッツリ踊る!
中詰はフランク・シナトラが歌ったジャズの名曲を並べた“ザ・ヴォイス”。久しぶりに名倉加代子氏が味のある振付で最高の場面を創り出しました。パーフェクトに歌う皆さんと大人びたムードの振付に震えがきました。
“ニューヨーク・ニューヨーク”
“オール・オブ・ミー”
“カム・フライ・ウィズ・ミー”
“ナイト・アンド・デイ”
“ストレンジャーズ・イン・ザ・ナイト”
“マイ・ウェイ”
さらにこの中詰のあと鳳月さん、暁さん、風間さんトリオが銀矯で歌い踊るのが“イッツ・ザ・オールライト・ウィズ・ミー”。もう最高!
後半は羽山紀代美氏振付によるドラマティックな“ミッドナイト・イン・巴里”から。舞台下手に懐かしいジョージ・ラフトの映画『You and Me』のポスターがさり気なく貼られていてレトロなムードいっぱい!ストライプの白いスーツで決めた月城さんをギャングの情婦役の海乃さんが惑わす?演出の三木氏は海乃さんにイメージとかけ離れた悪女役を挑戦させました。あまり上手くないけど海乃さん凄く努力されたようです。そういえば『東京リズム劇場』でも演出の松本晋一さんが橋爪麻美さんに長いこと悪女役をやらせて稽古場で何度もやり直しさせて楽しんでましたっけ。演出家の特権ですね。
さて、黄色い様々なデザインの衣裳を着けた若手が銀矯を渡りながら《月》“ムーン”に縁のある曲
“ハウ・ハイ・ザ・ムーン”
“ブルー・ムーン”
“ペーパー・ムーン”等を歌う。
雪組から月組に移ってきた娘役の彩みちるさんがソロで目立っていました。私たち観客に若手スターを覚えさせる最良の演出です。振付はAYAKO氏。
続いて暁千星さんのソロから。懐かしい“ジャズマニア”の主題歌を歌ってくれました!そしてロケットに続くのですが今回はネコみたいな尻尾の着いた衣裳でデザインと共に衣裳の生地も珍しくて印象に残りました。振付もユニークでした。
フィナーレではモダン・ジャズの神様ディジー・ガレスピーの名曲“マンテカ”で一気に通すのも斬新。“マンテカ”の登場は2004年草野旦氏演出の『タカラヅカ絢爛』以来かも。瀬奈じゅんさんが銀矯でキザにキメてましたっけ。振付はその時と同じ羽山紀代美氏で、アンサンブルの振りにその時の動きを入れていたのが懐かしい。さて今回のフィナーレ、先ずは大階段のセンターに立つ月城さん。真っ赤なスカートの娘役さん達が豪快に囲む。次に男役がズラッと登場。今回は黒燕尾服の下はタイとシャツの正装でなく、ブラウンのサテンのシャツという宝塚にしてはラフなイメージ。さらにスリー・ペアのデュエット・ダンスなのですが、相手役がスライドして変わってゆくのが珍しくて面白い!
新生月組は月城かなとさんと海乃美月さん、鳳月杏さん、暁千星さん、風間柚乃さんと歌える5名でガッツリ行くのかと思いきや、暁さんまさかの組替え?私のコラムでは点数が辛かった暁さんですが、組替えを前に少し意識が変わり男役クサさが出て来た様です。スター路線にある人の宿命なので前向きに頑張って頂きたいです。お芝居もショーも素晴らしいので今回はCDとDVDを買うことにしました。
天野 俊哉
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