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Vol.1726 もうすぐ生誕100年アン・バクスター〜才能はあったのに
 名古屋駅から名鉄犬山線に乗り犬山方面に向かうと途中に明治村という中部地方のテーマパークがあります。東京では考えられない位広大なエリアに明治時代の建物がズラリ。入館も可能な旧帝国ホテルまでが残されており何度も訪ねたくなってしまう場所であります。さて、この旧帝国ホテルを設計したのアメリカ人のフランク・ロイド・ライト氏。このライト氏の孫娘がハリウッド映画女優として活躍したアン・バクスターです。やっと登場しましたね、アン・バクスター。才能はあったのに何かと恵まれなかったハリウッドの映画女優です。

《ハリウッド・デビュー》
 10代でブロードウェイの舞台にデビュー、16歳でアルフレッド・ヒッチコック監督作品『レベッカ』の主演オーディションを受けるも「若すぎる!」だけの理由で不合格に。さて、著名なフランク・ロイド・ライト氏の孫娘という話題性に目をつけたのがハリウッド映画界の異端児、『市民ケーン』のオーソン・ウェルズ監督。オーソンは自分の第2作目にあたる『偉大なるアンバーソン家の人々』に18歳のアンをスカウト、主演のジョセフ・コットンの娘役で映画デビューさせてしまいました。アンの落ち着いた演技が作品の質を高め注目され、この調子でハリウッド映画界を制覇、と思いきや第2次世界大戦が勃発。せっかく20世紀FOX映画と契約するも、会社が製作する『潜航決戦隊』『ノース・スター』『サリヴァンズ』『サンデー・ディナー・フォー・ソルジャー』みたいな戦争映画ばかりに出演させられる事に。女優不遇の時代にあってチャンスをくれたのがまだ新人監督であったビリー・ワイルダー。砂漠を舞台にした戦争サスペンス『熱砂の秘密』に紅一点で出演しました。ナチスの捕虜になった自分の弟を救い出す事だけを考えている非国民のフランス娘を堂々と演じきりました。
 この時まだ20歳。

《アカデミー助演女優賞受賞》
 戦争が終わってキチンとした映画製作を強いられたハリウッド映画界。FOX映画はサマセット・モームのベストセラー小説『剃刀の刃』を映画化、アンは主人公の友人役でアカデミー助演女優賞を受賞してしまいました。この年同じく助演女優賞にノミネートされていたのがエセル・バリモア(ドリュー・バリモアの大伯母)、リリアン・ギッシュ、フローラ・ロブスンら超の付くハリウッドのベテラン女優ばかりでした。私はいまだにこの『剃刀の刃』を観てませんのでアンが何をどう演じたのか分かりませんが、同じ年に製作された名優ポール・ムニと主演した『エンジェル・オン・マイ・ショルダー』を観れば23歳という年齢を感じさせないその落ち着きと演技力の確かさには驚いてしまい、アカデミー賞を獲った事も納得出来ます。

《不遇のオスカー女優》
 これでハリウッド映画界を制覇、と思いきやFOX映画はアンに相応しい作品を見つけられず。MGMに貸し出されてクラーク・ゲイブルとラナ・ターナー主演『帰郷』に再び助演格で出演。ゲイブルの妻役なんて無駄に使われて面目丸潰れのアンがFOX映画に戻ると今度は売り出し中のミュージカル・スターのダン・デイリーと組むことに。『ユア・マイ・エブリシング』は名曲をズラッと並べたアット・ホームなミュージカルで、ダン・デイリーの才能を存分に発揮しました。映画の初めの方でコーラス・ガールの一人として登場し軽くステップ等もふむのですが、まだ26歳なのにその動きの鈍さは驚異的、ダンス・ナンバーはパスしたかったろうな。
 ダン・デイリーとのコンビが好評だったとみえ『彼女はニ丁拳銃』で再び共演。西部を舞台にした傑作で、アンはアニー・オークレーみたいな男顔まさりのじゃじゃ馬娘を好演しました。今では脇役でほんの少しだけ出演する「マリリン・モンローの初期の作品」として有名です。

《イヴの総て以降》
 才能豊かな脚本家で監督のジョセフ・L・マンキーウィッツの名作『イヴの総て』でアンはタイトルのイヴを演じました。本来大女優のマーゴを演じたベテランのベティ・デイビスが主演で、アンは助演のはずがここではまさかのダブル主演の扱い。久しぶりにこの名作を再見して大変満足はしましたが、やはりアンは助演のが良かったのでは?と思ってしまいました。また、素晴らしい作品ではありますが、マンキーウィッツの本が完璧で俳優の力を上回っている印象。
 アンはベティ・デイビスと共にアカデミー主演女優賞にノミネートされるも『ボーン・イエスタディ』での軽いコメディ演技が評判のジュディ・ホリデイに2人揃って完敗。
 同じ『イヴの総て』のセレスト・ホルムが助演女優賞を受賞したのも皮肉な結果になりました。主演とか助演とかどこがどう分けるものなのか?詳しく知りたいものです。かつてのアカデミー助演女優賞女優に戻ったアンはFOXのスターが大勢出演するオー・ヘンリー原作の『人生模様』の1編「最後の一葉」に主演するも地味な役柄が勿体ない。オー・ヘンリーと言えばやっぱり「賢者の贈物」だと思うのでアンより年上のジーン・クレインに役をもって行かれたのは残念な結果に。しかもいつの間にか時代はマリリン・モンローやジーン・ピータースら若手の時代に。まだ20代の、そしてアン・バクスターの誇れる最後の作品はアルフレッド・ヒッチコック監督の『私は告白する』でしたが、これもモンゴメリー・クリフトが主役の話でアンでなくても良かった様な役柄でした。
 その後まだ多くの作品に主演するも何となく興味のわかない作品ばかりで私は観てません。

《テレビで本当の主役を》
 私がハリウッド映画を観始めた中学生の頃、NHKで放送されていた『刑事コロンボ』が凄い人気でした。ある放送日に私の両親が「この女優誰だっけ?」「ほら顔の四角い」「アン・バクスターよ」とか失礼な会話をしていた事をよく覚えてます。このコラムの為にアンがゲスト出演した『偶像のレクイエム』を初めて観たのですが、まあ見事な主演女優ぶりでした。主役のコロンボが完全に脇にそれてしまう位ほどでした。思えばハリウッド時代には「真のアン・バクスター映画」がありませんでした。自分では気に入った作品や役柄を選べないというハリウッド映画の専属システムの犠牲者だったのかも知れません。あくまで私の憶測にすぎませんが。

 今回はアン・バクスターを取り上げました。

天野 俊哉



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