TAP DANCE LOGO
INSTRUCTORS
STUDIO : 戸塚スタジオ
NETWORK
SCHEDULE
EVENTS
COLUMNS
DANCE TEAMS
LINKS
OUR MASTER : 佐々木 隆子
COLUMNS

Vol.1716 映画三昧の日々〜日本のミュージカル映画(後)
 日本製ミュージカル『孫悟空』は黒澤明監督が『姿三四郎』で監督デビューする以前にスタッフとして携わった作品で、黒澤監督の師匠である山本嘉次郎が監督、日本の喜劇王と呼ばれたエノケンこと榎本健一さんが主演した1940年製作の東宝超大作です。今回は皆さまお待ちかねのミュージカル・ナンバーのお話をいたしましょう!

《見事なダンス・ナンバー》
 映画の最初に長々と紹介されるスタッフとキャストのクレジットが作品の豪華さを物語っています。まず気になったのが
《按舞》
益田隆・荻野幸彦

 按舞とは舞踊監督、今なら振付担当だと思います。荻野幸彦氏は多分戦前の日劇でタップ・ダンサーとして活躍した荻野幸久氏と同一人物と思われます。
《特別出演》
益田隆(東宝舞踊隊)
東宝舞踊隊(日劇ダンシングチーム改メ)

 先の按舞担当の益田隆氏が堂々の位置付けですねぇ。
 日劇ダンシングチーム改メの最後の“メ”がカタカナなのが笑える。1940年と言えば既に戦時体制下、来るべきアメリカとの戦争(1941年12月〜)に備えて横文字を禁止しての改め。はやっ!

 バレエやダンスの振付はクレジットされてる益田隆氏の担当と思われます。東宝の大作だけあって幾つかのミュージカル・ナンバーに登場する階段や坂に工夫を凝らしたセットが素晴らしい。そのセットをフルに活用した益田氏のフォーメーションやダンス構成、さらにはハリウッド・ミュージカルを意識したカメラ・ワークに唸りました。カメラマンはハリウッド製のミュージカル・ナンバーの構図を良く理解していて画面一杯にダンサーを埋めて立体的に見せているのです。最初の方でコウモリみたいな衣裳を着た益田氏自身が踊る洞窟のダンス・ナンバーではダイナミックな振付と、それをこなすダンサーズのスピードが見事です。

《タップダンス・ナンバー》
 タップ・ダンスは映画のラストの方で日劇ダンシングチーム改メ東宝舞踊隊の女性ダンサー40名によって踊られます。オモチャの兵隊を意識した白い兵隊ルックで皆さんエレノア・パウエルみたいでステキです!
 白いスラックスの丈が短めの人がいるのもご愛嬌。荻野幸彦氏のタップの振付はマーチのリズムが心地好く楽しめます。後半、Buck Danceのステップが入るあたりから何人かがズレてきて急に人間ぽくなるのが笑えます。

《歌手とスゲエ音楽》
 孫悟空役のエノケンは浅草オペラ出身でコメディアンとしてだけでなく、エノケン一座の座長として舞台で活躍していたので歌は得意分野。一方、猪八戒役の岸井明さんも大きな体とは真逆な軽快な動きで数々の歌をこなしています。ゲスト出演とも言うべき李香蘭、流行歌手の渡辺はま子さん、少女女優の高峰秀子さんら女性陣もきれいなソプラノを聴かせています。これだけバラエティに富んだキャストで歌の下手な人がいないのも珍しい。

 エノケンや岸井明さんが歌う軽快な曲をよーく聴くとアーヴィング・バーリン作曲の“アレクサンダーズ・ラグタイム・バンド”だったりディズニー・アニメの名曲“狼なんか怖くない”なのは驚きました。全く関係ない歌詞で歌っているので途中まで気付きませんでした。
 また、森の場面でキノコが突然少女達になり歌われるのがディズニー・アニメ『ピノキオ』の“星に願いを”、同じく森の中で沢山の小人達が働きながら歌うのが『白雪姫』の“口笛吹いて”って一体何が何なの?
 しかも出演者全員が登場するフィナーレに流れるのが『白雪姫』の“ハイホーハイホー”って?戦争直前の日本が著作権なんか無視してるでしょうから無断使用でしょうね。スゲエ!
 ディズニー・アニメの『ピノキオ』がアメリカで劇場公開されたのが1940年2月、東宝で『孫悟空』が製作されていたのが同じく1940年ですので上海辺りで上映していた『ピノキオ』のフィルムを日本軍が没収して日本に持ち帰った!というのが考えられるケースですね。

 今まで和製ミュージカル映画と呼ばれるものを沢山観てきましたが点数を甘くしても30点程度の作品ばかりでしたが、バラエティに富んだ内容とダンス・ナンバー、パクリまくりのミュージカル・ナンバーの為にこの『孫悟空』のDVDを購入されても損はないはずです。オススメします。

天野 俊哉



Copyright 2005 Y's Tap Dance Party. All rights reserved.