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Vol.1669 もうすぐ生誕100年ジョーン・コールフィールド〜貴女はダンサー?
 この11月から名画座シネマヴェーラ渋谷でフレッド・アステアのミュージカル映画特集が初開催されています。かなりの本数が揃っているもののベティ・ハットンとの『レッツ・ダンス』とビング・クロスビーとの『ブルー・スカイ』の不在が残念です。今回は皮肉にもこの『ブルー・スカイ』のヒロインを演じたジョーン・コールフィールドを取り上げます。

 ジョーンは1940年代のパラマウント映画の女優で『ハリウッド宝船』『ハリウッド・アルバム』といったパラマウントのオールスター映画のゲスト出演、人気コメディアンのボブ・ホープと『吾輩は名剣士』に主演していますが、私はこれを観ていません。さて、後にも先にもジョーンの代表作といえば『ブルー・スカイ』に限定されます。
 アメリカや日本で発売されたフレッド・アステアの評伝によると、製作当初の監督はアステアとクロスビーが共演して大ヒットしたミュージカル『スイング・ホテル』(1942)を担当したマーク・サンドリッチだったとの事。驚くべきはクロスビーの旧友のダンサー役テッドにキャスティングされたのがアステアではなくポール・ドレイパーだった!ポール・ドレイパーはタップ・ダンサーの中では超インテリであり、伴奏の音楽もジャズなんかでは踊らないクラシック派。ハリウッドと波長なんか合うわけがないのです。ボブ・トーマスが書いた『アステア・ザ・ダンサー』によると、ポール・ドレイパーは撮影中にジョーンを見下し、イビりまくったそうな。やがてマーク・サンドリッチ監督が急死したのでスチュアート・ヘイスラーが代打監督に、さらにポール・ドレイパーが降板したのでアステアにオファーが行ったとか。これって少しばかり出来すぎた話です。私はマーク・サンドリッチ(監督)、アーヴィング・バーリン(音楽)、ハーメス・パン(振付)、ビング・クロスビー(主演)らがアステアを呼び出す為に最初から仕組んだのだと信じています。
 今回このコラムの為にジョーンを中心に『ブルー・スカイ』の日本語字幕版を観ました。私は今までジョーン・コールフィールドをアステアのパートナーのひとり、という見方をしてきました。確かにオープニングのナンバー“A Pretty Girl is Like a Melody”は華やかですがジョーンはアステアにリードされてるだけにしか見えませんし、ダンスの技術を必要としたナンバーではありませんね。これでは『踊る騎士』でアステアと組んだジョーン・フォンテーンと同レベルです。実のところ『ブルー・スカイ』で歌に踊りに活躍するのはオルガ・サン・ファンというもうひとりのヒロインの方なのです。観客は才能に満ちたビング・クロスビー、フレッド・アステア、オルガ・サン・ファン、そして形態模写のビリー・デ・ウォルフらに魅了されてしまい、いつの間にかジョーンを忘れてしまうのでした。

 さて、自分のDVDコレクションからジョーンの作品を探したてチェックしてみました。
『ザ・ペティ・ガール』(1950)
 ジョーンがパラマウントではなくコロムビア映画でロバート・カミングスと主演したミュージカル映画。ジョーンはタオル1枚の姿で歌いながら登場、少しずつタイツや洋服を着てゆき靴を履いてお出掛けという魅力的なミュージカル・ナンバーからスタート。次がもぐり酒場でのカリプソ・ナンバー。露出度高い衣裳で歌い踊るのですが、先のオルガ・サン・ファンばりのパフォーマンス。そしてラストのユージン・ローリング振付の下着ファッション・ショーでは水着みたいな下着で歌い踊ります。エルザ・ランチェスターら年長のベテラン俳優に囲まれたジョーンはのびのび演技をして楽しそうで、『ブルー・スカイ』の彼女って一体何だったのか?
 また、コロムビア映画らしくミュージカル・ナンバーからBGMに至るまで音楽のセンスが最高でした。
 スゴいぜ!ジョーン。

『アンサスペクティッド』(1947)
 ミュージカルではない犯罪もの、ノワールというジャンルの映画です。監督は名作『カサブランカ』のマイケル・カーティス。ジョーンは『カサブランカ』のクロード・レインズらの名優を従え堂々の主役を。ただ、ノワール映画になくてはならない悪女役のオードリー・トッターや一時代前の美人女優コンスタンス・ベネットが登場するや一気に存在感の無くなるジョーン。それにしてもアステアの歴代パートナーであるジョーン・フォンテーン、ポーレット・ゴダード、リタ・ヘイワース、マージョリー・レイノルズ、ジョーン・レスりー、ルシル・ブレマーらと共にジョーン・コールフィールドもキャリアの後半がノワール映画という流れが笑わせてくれます。

 今回はミュージカル映画『ブルー・スカイ』に主演したジョーン・コールフィールドを取り上げました。

天野 俊哉



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