TAP DANCE LOGO
INSTRUCTORS
STUDIO : 戸塚スタジオ
NETWORK
SCHEDULE
EVENTS
COLUMNS
DANCE TEAMS
LINKS
OUR MASTER : 佐々木 隆子
COLUMNS

Vol.1629 もうすぐ生誕100年ヴェラ=エレン〜最高の女性ダンシング・スター(中)
 ハリウッドを代表する女性ダンシング・スター、ヴェラ=エレンのご紹介の中編です。
 えっ、後編じゃなくて?
 はい。ついつい指が弾んでしまいまして・・・。

 1949年、晴れてMGM映画スターの一員になったヴェラですが、同じ時期にアメリカでは人気の高かったコメディ・チーム、マルクス兄弟主演のミュージカル・コメディ『ラブ・ハッピー』(1949)に出演しています。これは独立プロダクションが製作してユナイト映画が配給した作品です。マルクス兄弟最後の劇場映画であり、珍しくハーポ・マルクスが主演、ベティ・ハットンの姉で歌手のマリオン・ハットン、あのマリリン・モンローが脇役出演しているのが特徴です。オープニングのタイトル・バックに流れる主題歌を歌うのがマリオン、タップを踏むのがヴェラという豪華版でスタートします。名前の分からない男性ダンサーが私達みたいなタップのステップを女の子達の前で踏んでるのが笑えます。ヴェラをフィーチャーしたプロダクション・ナンバーは悪くありませんが『雨』のサディ・トンプソンをヴェラに演じさせるのには無理があり残念。ミュージカル・ナンバーでは、残念ながらダンサー達よりもチコ・マルクスのピアノ演奏やハーポのハープ演奏が見事すぎて場面をさらっています。

 1950年代のMGMミュージカルと言えばジーン・ケリーの時代でしたが、一度引退してカムバックしたフレッド・アステアも『イースター・パレード』や『ブロードウェイのバークレー夫妻』など素敵な作品に主演していました。
 『踊るニュウヨーク』(1940)のプロデューサー、ジャック・カミングスが人気音楽家チームのバート・カルマー&ハリー・ルビーの伝記映画『土曜は貴方に』(1950)を製作しました。原題は私とは非常に縁のある“スリー・リトル・ワーズ”。アステアと彼の相棒役レッド・スケルトンのコンビネーションとペーソスあふれる演技が魅力になっていて私はこの作品が大好きなのですが、アステアが途中から全く踊らなくなるのと、アステアの華やかなソロ・ナンバーが無いことからアステア・ファンには今一つ人気がありません。そんな中、ソロにデュエットに大活躍するのがヴェラであります。しかもアステアさんと4曲も踊る!映画のオープニングで、黒燕尾服にシルクハット姿(そして何故か白い靴下)のお二人が歌い、タップを踏み、ステッキを放り投げあうスマートな“ホェア・ディッド・ユー・ゲット・ザット・ガール”。アステアさんの上半身が全くぶれないのが凄い。お二人の笑顔を見ているだけで幸せになれる心地好いナンバー。
 次の“ミスター&ミセス・スミス・アット・ホーム”は中学生の時に買ったサントラ盤レコードには収録されてなかった。長年、私はヴェラはステージ衣裳よりも普段着っぽい方が可愛らしくてお似合いと思ってましたが、初めてDVDの鮮明な画面でチェックしてみるとこのナンバーでは、白いブラウスにも緑のスカートにも数えきれない位のラメが散りばめられているのですね!赤ちゃんのいる新婚家庭のリビングルームのセットにある椅子、電話、食器、テーブルそしてスカーフなどを器用に使う振付のアイデアと共にお二人の息のあった踊りが最高。
 次がヴェラのショー・ナンバー“カム・オン・パパ”なのですが、ハーメス・パンの構成と振付には無駄が無くて『ダニー・ケイの天国と地獄』や『スリー・リトル・ガールズ・イン・ブルー』のやたら長くて飽きてしまうソロと比べると映画全体とのバランスも良くてホッとします。この頃からヴェラの下半身、特に太ももが細くなりはじめてますね。
 アステアとヴェラが舞台上で歌う“ネヴァザレス”は大好きな曲です。ピアノを演奏していたスケルトンが最後にチラッと歌に加わる演出が素敵です。お話に続くので短いデュエットながら、ムードがあってアステアの軽やかなリードがもう神業です!
 実のところこの作品のナンバーは全て劇中劇なのですが、アステアとヴェラの4つめのデュエット“シンキング・オブ・ユー”だけは客船のお部屋の中でスケルトンのピアノ演奏でアステアが歌いヴェラと踊り出すミュージカル映画の展開になってます。
 先に述べた通り原題が『Three Little Words』3つの小さな言葉であるアイ・ラブ・ユーを指しているのですが、日本での題名『土曜は貴方に』が何処からどう出てきたのかはいまだに分かりません。でも良い題名ですよね?

 いかにアメリカとイギリスが共通の英語を喋る国と理解していてもハリウッドの映画俳優がわざわざイギリスに出向いてイギリス映画に出演していた事がいまだに理解出来ない天野であります。さて、我らがヴェラもイギリスで『銀の靴』(1950)という作品、しかもミュージカル映画に主演しております。イギリス出身のハリウッド俳優デビット・ニーヴン、生粋のハリウッド俳優シーザー・ロメロが一緒ですので不安は無かったと思いますが。
 今回、だいぶ前に買って封すら切っていなかったDVDを初めて鑑賞しました。ハリウッド映画の鮮やかなテクニカラーと違い、リアリティがあるものの全体的にくすんで見えるのは残念。
 思えばハリウッドで製作されたヴェラの出演作品は必ず男性スターのお話であり、ヴェラはその妹、友人、恋人、奥さんというあくまでサポート的な役柄でしたが、これこそは《主演ヴェラ=エレン》と言えるのですよ!
 知らなかった!
 つまりイギリスの貧乏劇団のコーラス・ガール、ヴェラの恋物語なのです。主役なのでハリウッドばりのヘアメイク、下着からネグリジェから部屋着から普段着からパーティ・ドレスから練習着から舞台衣裳まで全てセンスがよろしくて彼女が何着着たのか数えなかったけれども凄い着数でした。もちろん最初から最後まで出ずっぱりです。堅物社長を演じるニーヴンとヴェラの相性もすこぶる良くてお話のテンポも快調。ダンス・ナンバーは2曲あって、トー・シューズを履いたヴェラのクラシカルなバレエ“ワン・トゥー・スリー”は踊りもですが、ヨーロッパならではの舞台の書割りも魅力的です。プロダクション・ナンバーとも言うべき“ピカデリー”ではゴールドとブラックの素敵なデザインの衣裳を着たヴェラが閉じた傘を持ったロンドンの男性二人共に軽くタップを踏みます。やがてジゴロが現れ“10番街の殺人”を思わせるダークな展開に、誰も死なずに恋人らしき男性と幸せなデュエットに。フィナーレがヴェラの吹替えによるバラード、でもここの衣裳と照明がまたまた素敵でした。
 この『銀の靴』の撮影風景というのがサイレントですが記録映画として残っているのが貴重です。振付師立ち会いのもと、ヴェラさまとイギリス人ダンサー二人の段取り風景が見れます。イギリスの誰かがYouTubeにアップしてくれましたので興味のある方は是非ご覧下さい。
 つづく。

天野 俊哉



Copyright 2005 Y's Tap Dance Party. All rights reserved.