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OUR MASTER : 佐々木 隆子
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Vol.1622 もうすぐ(祝)100歳マージ・チャンピオン
 1950年代にハンサムなガワー・チャンピオンとコンビを組み《マージ&ガワー・チャンピオン》としてMGMミュージカル等で大活躍したダンサーのマージ・チャンピオンが今年の9月2日に何と100歳を迎えます。

 近年、何故かマージの露出度は日本でも高くなりました。それは残念ながら《マージ&ガワー・チャンピオン》としてではなく、マージが1930年代にディズニーの有名なアニメーション・キャラクターのモデルをつとめていたからであります。
 『白雪姫』の白雪姫及び踊る小人さん
 『ピノキオ』のティンカーベル
 『ファンタジア』の踊るカバさん

 特に名作『白雪姫』に至っては1937年当時の資料がカラー映像でたっぷり残されているので私も今回初めて観ました。マージは若くしてウォルト・ディズニー・プロダクションのアニメーターと(最初の)結婚をしていた事から、当時のご主人の仕事の為に一肌も二肌も脱いでおります。撮影の合間に見せるマージの笑顔がハリウッド映画時代には無かった位チャーミングで最初のご主人も、アメリカを代表する色男のダンサーである2番目のご主人ガワーをもメロメロにしてしまったのはこの笑顔だったに違いありません。
 かなり前に「多分映画『白雪姫』に関係した人間で生きているのは私だけね」という凄い言葉を残したマージ、ホント貴女以外にもう誰もいませんよ!

 さて私はマージの結婚エピソードには詳しくありませんので何故ディズニーのアニメーターからダンサーに乗りかえたのかは知りません。ガワー・チャンピオンと言えば、白雪姫と共に1930年代を代表する名子役シャーリー・テンプルとのこんなエピソードが有名です。子役を卒業してすっかり成長した10代のテンプルちゃんはダンスの上手いガワー・チャンピオンの大ファンで「結婚したい男性のナンバーワンだった!」と自叙伝で告白しております。しかしテンプルちゃんのお父さんから嫌われていたガワーとはご縁がなく、仕方なく?16歳の時に無名の俳優と結婚を。先の自叙伝によると、その結婚前夜のパーティ会場に颯爽と現れたガワーとダンスの最後にキスをしてしまった!そうで、テンプルちゃんの破天荒ぶりに思わず笑ってしまいました。やれやれ。

 まあ色々あってマージとガワーは結婚し、チャンピオン夫妻としてナイトクラブを経てハリウッド映画にスカウトされました。初めて2人を見たとき、私は2人の身長の凸凹が気になっていましたが、いざ踊り出すとこの身長差が逆にダイナミックな魅力を醸し出していることに気づき、それ以来彼らの大ファンになりました。映画デビュー作のビング・クロスビー主演のミュージカル『Mr. Music』は残念ながら白黒画面が地味で不思議と2人のダンスが生かされなかったのですが、これに続くMGMで出演した数々のテクニカラーのミュージカル映画は今や伝説です。

『ショウ・ボート』
 歌のキャスリン・グレイスンとハワード・キールが主演したMGMのA級ミュージカル。ジェローム・カーンの名曲に合わせて華麗に踊るチャンピオン夫妻。器用に傘を使ったガワーの振付が素敵です。ダンスのラストに見せるケーク・ウォークの振りがやたら盛り上がります。出番は2曲で劇中劇として舞台でのダンスでしたが、クラシックな衣裳が小柄なマージには似合っていなくて、私的には減点をつけてしまいました。ただ、映画で初めて聴かせたマージのコケティッシュな歌声には魅力があり、MGMは吹替えを使わずゴーサインを出しました。

『Lovely to Look At』
 戦前にアイリーン・ダン、フレッド・アステア、ジンジャー・ロジャースで映画化したブロードウェイ・ミュージカル『ロバータ』のテクニカラーによる再映画化。こんな名曲だらけのミュージカルって貴重です。アステア&ロジャースのダンスを新たに作りかえるならばチャンピオン夫妻をおいて他にはいません。モダンな“I Won't Dance”は動く椅子や数々の仕掛けで2人の身長差をカバーし、さらに寄りのカメラワークで物凄くスピーディーな効果を出しました。また、優雅な“Smoke Gets in Your Eyes”こそは私の一番大好きなチャンピオン夫妻のダンスナンバーです。星空の中をブルーを基調としたセットで踊る姿が美しい。
 メインの振付に天才ハーメス・パンがクレジットされているのできっとガワーに創作のアドバイス等をしていると思われます。さらに、ここではマージもガワーも主要キャストとして沢山の台詞をもらい存在感を示しました。

『Give a Girl a Break』
 マージ&ガワー・チャンピオン夫妻が初のトップ・ビリング。さらに、ボブ・フォッシとデビー・レイノルズというMGMの若手ミュージカル・スター達が共演。予算とスタッフのレベルを下げたMGMのB級ミュージカル映画として製作されましたが、あまりにも贅沢な作りにビックリ。
 画面一杯に風船を飛ばして踊りまくるボブとデビーのダンス・ナンバー“In Our United States”が有名ですが、チャンピオン夫妻のビルの屋上でのダイナミックなデュエットもピカ一。
 2人のダンス・ナンバーとしては珍しくジャズ・アレンジのリズム系の音楽ですが、ガワーの新しい感覚が冴えています。もうひとつのガワーが夢見るスタジオ一杯に立てられたポールを使ったダンスでのマージはシンプルな赤のワンピース姿がさりげなくて美しい。MGMは『雨に唄えば』でブレイクしたデビーを売り出していたのでフィナーレで主演のガワーとデュエットするのはマージでなくデビーでしたので何となく奇妙な感じでした。

『Everything I Have Is Yours』
 これはもうマージ&ガワー・チャンピオンの単独主演作です。岩本町のTRBタップダンススタジオの壁にこの映画のサントラ盤レコードのジャケットが飾られています。これもMGMではB級作品扱い。オープニングでこちらに向かって踊りだすチャンピオン夫妻の躍動感が最高。ところがお話が進むと共にテンションが下がってしまうのは残念。夜の街を2人が踊るナンバーもコミカルな味が足りず盛り上がりに欠ける。なんといってもお2人に映画1本を引っ張る力量は無かったようで。

『私の夫は二人いる』
 これはMGMではなくコロムビア映画で製作されたミュージカルですが、一定のクオリティを保ち成功しました。主演はベティ・グレイブルと新人ジャック・レモン。マージとガワーはMGMで演じていた助演レベルの役柄とは違ってベティやジャックとガッツリ4人で話を進めるポジション。ベティと相性の良いジャック・コールの振付はチャンピオン夫妻には不釣り合いなので、自然とガワーが振付したであろうダンス・ナンバーを探してしまう。ガーシュインの名曲“Someone To Watch Over Me”で踊るマージ&ガワー・チャンピオンの映画でのラスト・ダンスは、映画会社の違いを感じさせない位に素晴らしい!

 MGM時代から全てのダンスを振付しているのはガワーでした。映画時代からダンサー仲間のボブ・フォッシと比べられる事が多く、映画界からブロードウェイの舞台に移ってからもそれは続きました。「ボブ・フォッシやジェローム・ロビンスに比べて振付師としてのガワーは過少評価されすぎ!」とはガワーと離婚後のマージの言葉。こういう言葉ってなかなか言える事ではありませんね。ガワーは1980年、タップダンス・ミュージカルの名作『42ND STREET』のブロードウェイ初日に急死して永遠に名を遺しました。
 現在に至るまでマージはブロードウェイの舞台で、引退したダンサー達の転職のケアの仕事や振付師に沢山の仕事を斡旋してきたそうです。157pの小柄な身体に似合わずパワフルなマージはこれからも進み続けるのではないでしょうか?

 少し早いですが、マージ・チャンピオンさんお誕生日おめでとうございます!
 いつまでもお元気で。

天野 俊哉



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