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OUR MASTER : 佐々木 隆子
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Vol.1611 『2019年の東京リズム劇場』タップ・サスペンス劇場
 横溝正史原作の昭和サスペンスの名作『金田一耕助シリーズ』がいよいよ東京リズム劇場に登場。

《金田一耕助と等々力警部そして検視官》
 今まで映画やテレビで私立探偵の金田一耕助を演じてきたのは中尾彬・渥美清・石坂浩二・古谷一行・西田敏行・豊川悦司etc.そしてこの舞台では穴田英明先生。

 金田一さんとある時は仲良く、ある時は対立しながら捜査をすすめる等々力警部を演じてきたのは、夏八木勲・加藤武・ハナ肇・長門勇etc.そしてこの舞台では私が演じました。このドラマでの穴田先生と私のツーショット写真が残っていないので替わりにオープニングの衣裳を着ての写真を。こんな雰囲気でした。
 穴田先生は一番ポピュラーな古谷さん石坂さんの役創りで会場の笑いを誘ってました。下駄をはいて、大きな鞄を持って、困ると髪をボリボリかきむしる!
 稽古場でも早くから衣裳着用で金田一さんになりきってましたね。愛すべき金田一耕助をつくりあげました。
 また、最初の方で他殺死体となった芦屋京子(橋爪麻美さん)を検証しているのが浅川新さん。トーンの高い早口がいかにも検視役にあっているのでお客様の評判が高かったです。足にビニールの袋を被せるまでした扮装は穴田先生と共に本格的でした。

《昭和とベッドシーン》
 台本の読み合わせの数日後、サンフランシスコの松本先生から役創りのアドバイス映像が私達に送られてきました。昭和のドラマ映像等もあって、聞き取り調査を受ける女の子達の場面に加えてベッドシーンも含まれていたので若手の皆さん「あんなのどこにあったのかしら?」と驚いたようです。現在は放送規定が厳しくなりましたが、私が子供の頃1970年代までのテレビでは女性の裸体やベッドシーンは当たり前。
 “テレビで性教育”みたいな時代だったのです。最近、キスシーンすら消えましたからね。さて、舞台上でのベッドシーン。白川希さんと橋爪麻美さんの立ったまま!というのが場内大爆笑でしたね。そのベッドを後ろで支えている人がいるのも笑えました。

《衣裳と練習着》
 タイトルの『赤いタップシューズの女』を演じられたみすみ“Smile”ゆきこ先生は懐かしのバブル時代の肩パットの入ったスーツを、橋爪さんは当時のディスコファッションをおもわせる青いゆったりしたミニのワンピースを。
 逆に初めてのハイレグのレオタードやサウナパンツを見せられたのが若手の皆さんはやや困惑気味。懐かしの練習着をズラーッと目の前に並べられた時の皆さんの真っ青な顔が笑えました!失礼。
 スタジオの生徒役の子達には今回は初めてマイクが付けられました。少しずつですがセリフもあって嬉しそうでしたね。特に高見沢先生殺害現場に遭遇した生徒役の隆江さんと簗瀬あずささんはニコニコしながら喋るので「なんか嬉しそうです、一応先生が殺されたんだから悲しそうに!」とダメ出しをされてましたね。

《高見沢家の人々》
 タップダンス・スタジオの主宰者を演じた白川希さん扮する高見沢先生の家庭には凄いこだわりが。まずBGMはクラシック音楽、長いテーブル、豪華なディナー料理、奥様役の倉形裕代先生、長女役の金子真弓さん、長男役の首藤直子さんのリッチな衣裳。さらに薄井由美子さん扮する家政婦うめまでがいる。
 テーブルの上に並べられたディナーは既製品ではなく首藤さんとお姉様の2人の手作りなんですよ。本番直前にいつも「お腹が減った!」と言ってる金子さんが本当に食べ始めたらどうしよう!と心配してしまうくらい美味しそうなディナーでありました。そうそう、舞台ではすっかりイケメンの男役が板についた首藤直子さんですが、もしかしたらリズム劇場の女性キャストの中で一番女性らしい人かも知れないのですよ。

《金田一さんとフケ・ダンス》
 「うーん、どうしても、そこが分からない!」と頭をボリボリかきむしった金田一さんこと穴田先生の頭から何やら白いフケがサーッ、サーッと落ちてきました!実はあれ味の素なんです。金田一の履いたタビとの相性が良くてソフトシューが栄えてましたね。
 さあて、舞台の前にまかれた味の素をどう掃除したらよいか?私達にも分からなかったんですね。金田一が掃除機で掃除し終わるまでお客様を待たせるの?
 公演直前に私達に出た指令が何とドリフターズの『8時だヨ!全員集合』の舞台転換でした。音楽がかかるとそれまで真面目に演技をしていた私達、死体として倒れていた白川さん、ドラマの最後を飾る生徒達までが舞台をバタバタと駆け回るのです。客席では大ウケだったそうで松本演出の冴えですね。

《橋爪さんが演じた芦屋京子》
 昔着ていたレオタードやワンピースを舞台の上で普通に着用してしまう美形の橋爪さんですが、早替えに次ぐ早替えのため写真が無くて掲載出来ないのが残念。今回は初めて殺されて死体になってしまう役を演じましたが、毎回袖からその演技を見ていましたがなかなかリアリティがあって叫び声も大したもの。女優開眼と言えるくらい凄かったです。

《等々力警部》
 最後に、私が頂いた等々力警部は唯一笑いとは真逆の真面目な存在でした。物語の説明をする位置付けなのでNGは許されません。ただ、死体とか、他殺とか、危ない系のセリフが多かったので稽古場所には苦労しました。知り合いの役者さんはクルマの運転中にセリフの稽古をしているとか。危ないセリフでも大きな声で言えるので都合が良いらしい。なるほど。
 また、犯人役のK-TAさんに手錠を掛ける仕草やタイミングが分からないので役を頂いてからはテレビで放送されるサスペンスドラマを観まくっていました。スタジオから小道具として用意された手錠には鍵がひとつしかなくて最悪のトラブルをずっと考えてました。手錠を掛けられるK-TAさんは、踊る曲数と衣裳替えが多かったので彼には預けられません。よって、私が「鍵があることを確認してから舞台で逮捕するね!」と安全策を取りました。

 高見沢殺害の容疑者のみすみ“Smile”ゆきこ先生と犯人であるK-TAさんのやり取りがあまりにも真に迫っていてドラマティックだったので劇場入りしてからはやや犯人に同情的な逮捕場面に変えました。

 公演翌日の事、私のところにやって来た本当のタップの生徒さんとの会話。
 「警部、質問があるんですが?」
 「はい」
 「S-B-TのTって何でしたっけ?」

 おしまい。

天野 俊哉



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