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Vol.153 映画評論家 双葉十三郎さん追悼
 昨年12月12日に99歳で亡くなった双葉十三郎さんは、故・淀川長治さんと同じ時代に活躍した映画評論家で、テレビやラジオなどメディアでの活動が主だった淀川さんに対して、双葉さんはあくまでも文章で生き抜いた方でした。
 私が12歳の時からずっと読み続けていた映画雑誌の「スクリーン」。その中で面白くて何度も読み返してしまったのが、双葉さんの<ぼくの採点表>というコーナー。10本近い作品の批評なのですが、今考えても信じられないのが作品の選定で、フェリーニからパゾリーニ、ワイルダーなど、一流作品に混ざって、「片腕ドラゴン」とか「カラテ愚連隊」みたいな、当時ブームだったけど絶対に双葉さんのような偉い方が観ないであろうZ(ゼット)級香港カンフー映画が入っていたこと(評価は最低でしたが)。この方は本当に映画が好きなのだなあ、と感心を通り越して尊敬していました。
 映画ファンは昔から洋画派と邦画派に分かれていて、評論家の方々もそうだったようですが、双葉さんは実は邦画も観まくっていたことを「日本映画批判」という本で知りました。現在に至るまでほとんどの人が褒め称える日本映画の巨匠黒澤明監督を、その現役時代に文章で斬りまくっていたのはものすごいことですね。例えば、私の大好きな「野良犬」での演出について、「すべてのショットに力が入りすぎて全体が重い」と、遊びの無さを指摘しています。そう言われてみればそのとおりで、これは黒澤作品全てに言えることなのですが、実に勇気ある発言です。またこの本では、戦後、一週間という早撮りで大量生産されていたチープな邦画についても斬りまくっていました。「日本映画が好きだから観てるのに、こんなもの作りやがって」という気持ちからだとは思いますが、こういった発言をするのは大変だったはずです。
 双葉さんは文春新書から、「僕の外国映画300本」をはじめとするシリーズ本も出版されています。これらはあくまでも作品紹介なので、残念ながらかつての鋭さはありません。私にとっては、自伝として書かれた「ぼくの特急二十世紀」が双葉さん自身を知ることができたという意味で、最も価値がありました。
 双葉さんの文章はたとえ辛口であっても、ユーモアと愛情を忘れない映画批評の「宝」でした。本当に長い間楽しませていただきました。ご冥福をお祈りいたします。

天野 俊哉






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