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Vol.1386 のんきな父さん?
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師走の金曜日、何時ものように二子玉川へ向かう半蔵門線の電車で、私の席の前に一人の女性が着席しました。クリーム色のコート、白いセーター、グレーのズボンそしてそのズボンに合わせたのか?グレーのソフト帽が頭に乗っている。年齢の割りにはお金をかけて、お洒落な雰囲気を醸し出していました。と、言うのもそのグレーのソフト帽は、私達が舞台で被る数千円で買える類いの安物ではなくて、万札が飛ぶくらいのキチンとしたものでした。
残念だったのは、帽子のつばが幼稚園児の帽子のつばみたいに360度キレイに揃って上を向いている事でした。つまり購入した時のままみたい。しかも彼女、両手でそのつばをキチンと上に反らせていた!そう言えば先日のY'sの発表会で両手で帽子のつばを持つ振りがありましたが、その振りと似ていました。
私の位置から見ると、被り方は真っ直ぐだし、つばがキレイに揃っているので、お洒落な女性ではなくて、幼稚園児に見えてきてしまいました。
そうそう、まだ新宿のシアターアプルでナショナル・タップ・デーが開催されていた頃、私が振付した“JAM”というナンバーで、ダンサー全員が黒のソフト帽を被っていたのですが、リハーサルをご覧になっていた故牛丸謙先生がマイク越しに「そこの女性、帽子の被り方が《のんきな父さん》みたいで変だぞ!」と、私よりも早く気付かれアドバイスして下さいました。
話は戻って、「帽子は少し斜めに、お顔がチョッピリ隠れると神秘的で素敵に見えますよ!」とアドバイスをしたかったのですが、勇気がないので半蔵門線の女性にはそんな事言えませんでした。テレビのファッション・チェック番組で、「おブス」とか「ちょいモテ」とか人の洋服チェックをする植松さんなら言えたのでしょうが。
ほんの数分間、そんな事を考えながら二子玉川駅で大井町線のホームに乗り換えると、驚くなかれそのホームに彼女と全く同じキチンとしたグレーのソフト帽を被るおじいさまが立ってらした。斜めには被っていませんでしたが、つばがうまい具合にウェーブがかかっていて、決して被られてる感無しで、とてもダンディに見えました。
近年、帽子をどう被るか?帽子のつばをどうしたら良いか?なんて参考になるものも無くなりましたね。かつては、ハンフリー・ボガートやイングリッド・バーグマンみたいに素敵に帽子を被るお手本の様なスターの映画や写真がいくらでもあったのに。
私達舞台人も、発表会と公演では帽子の被り方は異なりますが、出来るだけのアドバイスはしてゆきたいものです。牛丸先生の様に。
でも、《のんきな父さん》て?
<ソフト帽トリビア>
・柔らかいフェルト製の帽子、ソフトフェルトハット (soft felt hat) を略してソフト帽と呼ぶ
・ソフト帽のことをボルサリーノ帽と呼ぶことがあるが、これは1857年創業のイタリアの名ブランド、ボルサリーノ社がソフト帽を初めて販売したことで、ソフト帽の代名詞となったことによる
・日本では、アラン・ドロンとジャン・ポール・ベルモンドが出演した映画『ボルサリーノ』(1969)で有名になった
・『アンタッチャブル』(1987)では、マフィアの帽子の被り方が断然カッコイイ。FBIは被る深さも角度もダメダメで、まるでファッションに気を遣わなくなった《のんきな父さん》のよう
天野 俊哉
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